ヘテロクリニックの日記

病院勤務医時代に、今の医療体制では患者さんも医療者も幸せになれないのではと感じ、誰もが笑って幸せに生きる医療を届けるべく自由診療を開始しました。癌治療、緩和ケア、訪問診療などの経験を活かし、病気による人間関係、現在の医療問題、就労問題などを楽しく書こうと思います。

自分を信頼することの重要性

私はヘテロクリニック以外で胃カメラなどの内視鏡の仕事をしています。

先日胃カメラの検査をしていたところ、

耳の聴こえない患者さんが来られました。

胃カメラを受けることが初体験だというその女性は

緊張している様子もなく、ニコニコしながら検査室に入りました。

私は手話がほとんどできないので、

筆談と絵と身振り手振りでお話しました。

患者さんも慣れているのか、私に書く文章をみながら

私の口元もみて笑顔でウンウンと頷いていました。

 

さて、検査の説明が終わったところでいよいよ検査が始まります。

ベッドに横になり、麻酔の処置がされ、カメラが入っていきます。

患者さんは目をつぶっていました。

私はいつもであれば、検査中も患者さんに声をかけながら行います。

経鼻内視鏡は入れている時に患者さんも声を出すこともできるので

検査中にコミュニケーションがとれるのですが、

耳が聞こえないうえに目をつぶってしまったことで

いつものようなコミュニケーションがとれません。

一瞬大丈夫かなと不安になりました。

というのも初めて胃カメラとなるとわからないことも多く、

カメラの刺激で嘔吐反射が出てパニックになる人もいるからです。

ですから、聞こえないぶん検査中に不安になったりしないかと

私のほうが不安になりました。

しかし、彼女は目をつぶったまま安心しきった様子で検査を受けられていました。 

 

検査は問題なく終了しました。

とてもきれいで食道も胃も十二指腸も何の問題もなかったことを

筆談と撮影した写真を見せながら彼女に話しました。

彼女は私の説明する口元も確認しながら聞いておられました。

「大丈夫でしたよ。きれいでしたよ。」

そう言うたびに小さく手を叩いて喜んでいました。

最後に何度もありがとうと手話で伝えながら検査室を後にされました。

内視鏡の介助で立ち会っていた看護師さんから

以外と普通に大丈夫なものなんですねと言われました。

 

胃カメラをしていると、患者さんのなかには検査前からひどく緊張して

薬やカメラが入る前、椅子に座った時点でおぇおぇっとなっている人もいます。

以前のカメラをした時の記憶から不安になっているのか

人から聞いた先入観や初めての体験で不安になっているのか

少なくとも一定数の方は検査前から緊張が強くて

私の話もほとんど耳に入っていないだろうなと感じることがあります。

そういったこともあり、耳が聞こえないとなると

情報量が少なく、緊張もしやすくなるのではないかと考えていました。

耳が聴こえない状態で自分の体を人から何かされているというのは

どういう感覚なのだろうと考えました。

通常自分の感覚でわからないことが多くなるほど不安が強くなりそうです。

しかしそれは私の思い過ごしでした。 

 

みんなと同じような感覚は得られないかもしれません。

しかし、他の部分で補い、みんなと同じことができるのです。

本人にしかわからないことですが、本人のこれまでの過程で

当たり前のようにできるようになったのだと思います。

ですから胃カメラの検査だって当たり前のようにできるのだと思います。

それは自分にはできる、大丈夫と信頼しているのではないかと思います。

 

今回、私は彼女から検査に対して信頼していただいたことと

何よりも彼女自身が自分に対して信頼していることの重要性を

教えていただきました。