ヘテロクリニックの日記

病院勤務医時代に、今の医療体制では患者さんも医療者も幸せになれないのではと感じ、誰もが笑って幸せに生きる医療を届けるべく自由診療を開始しました。癌治療、緩和ケア、訪問診療などの経験を活かし、病気による人間関係、現在の医療問題、就労問題などを楽しく書こうと思います。

私がへテロクリニックでこの仕事を始めたわけ(14)

前回(13)の続きです。

 

ある日のことでした。

朝目覚めると自分がどこにいるのかわからなくなりました。

そこは確かに自分の住んでいる家でした。

しかし目の前に広がる光景はナースステーションでした。

自分がベッドにいるのに、看護師さんたちが次々話しかけてきます。

「先生、今日の・・さんの点滴いついきます?」

「先生、・・さんが診断書、書いてほしいって。」

「先生、明日の・・さんの検査のオーダーを早めにお願いします。」

私以外の人間がいつもと同じように動いていました。

ナースコールのピピピっという音も聞こえます。

いつもの光景です。

周囲がそんな様子なのに私は起き上がることができません。

体が動かないのです。

(どうしよう。動けない。ここはどこ?家?病院?)

頭の中がパニックになりました。

しばらくすると携帯電話が鳴っているのがわかりました。

なんとか片手を伸ばして取ると医局長からでした。

「どうした?」

「体が動きません。」

気がつくと、やはりそこは自分の部屋でした。

朝のミーティングの時間は過ぎていました。

「わかった。とりあえず、やすみなさい。」

そのままクラクラしていつの間にか気を失うように眠っていました。

 

その日から私は休職することになりました。

突然自分の居場所がなくなったように感じました。

患者さんのために、患者さんのためにと、自分の身を削りながら働いていたので

これまで自分が頑張ってきたものが何もかも失われたように感じました。

それからというもの体が緊張してこわばり眠れなくなりました。

あまりにもひどいので睡眠導入剤を飲みますが眠れません。

そんな状態が何日も続き、苦しくて仕方がありませんでした。

もう自分はダメなのだ、生きている価値がないと思うようになりました。

周囲の方の支えもあり、なんとか病院に復帰しましたが

 一体どうすれば自分の思いを解消できるのだろうと悩んでいました。

 

ある時、感情カウンセラー養成講座が始まると

一悟術の代表の岡村茂さんから聞きました。

 

感情の扱い方について学べるということで、私は早速講座を受けることにしました。

感情が自分や患者さんの人生に影響を与えているのでは、

そのようにずっと感じていたのした。

 

感情カウンセリングは自分の感情を一旦自分ではない別のものとして扱います。

これによって、自分が何に悩まされ何にとらわれているのか

自分で気がつくことができます。

養成講座を受けたのち、私は初めて勘違いしていることに気がつきました。

私は自分の生きることへの辛さ、苦しさを

癌の患者さんに投影していたのではないかということです。

癌の患者さんが告知の時や闘病中に葛藤する苦しみを

頑張っても報われない自分自身と重ねているようでした。

私はずっと生きることが辛いと思っていたのでした。

いつも自分のしている努力が認められていない、

自分が思うように生きられない、

そのような思いを抱えて生きていました。

ですから、患者さんとお互いに苦しい辛いといったループにはまっていたのです。

相手の辛そうな様子をみて自分も辛くなってしまい

なんとかしたい、なんとかできない、どうしよう、どうしたらいいのかと

感情的なやりとりになってしまっていたのではないかということです。

 

 相手がかわいそうだから、辛さそうだから、こうしてあげたい

というのはいっけん良いことのように感じるかもしれません。

しかし、どう選択するかは本人が決めることです。

してあげたことが必ずしも本人にとってプラスになるとは限りません。

かえって負担になってしまったり、

本当にしたかったことを邪魔してしまうこともあります。

そう考えると患者さんのことが第一ではなく、

自分の思いが先行して行動していたように思います。

そうであれば患者さんの本当の意味でのサポートができていなかったのではないかと

思うようになりました。

 

今現実に起きている状況に対してどう生きていきたいか

本当は答えはシンプルです。

こうなったらどうしよう、

こうしたらどう思われるか、

こうしたら失敗するかも、

こうしたら相手に怒られるかも、

こうしたら相手を傷つけるかも、

誰かを気にしたり、過去にとらわれたりしながら

多くの人は苦しんでいるように感じます。

感情は物事を複雑にさせてしまいます。

それは感情にとらわれず自分の思う本当の生き方に気づくには

やはり自分の感情と向き合う必要があるのです。