ヘテロクリニックの日記

病院勤務医時代に、今の医療体制では患者さんも医療者も幸せになれないのではと感じ、誰もが笑って幸せに生きる医療を届けるべく自由診療を開始しました。癌治療、緩和ケア、訪問診療などの経験を活かし、病気による人間関係、現在の医療問題、就労問題などを楽しく書こうと思います。

私がヘテロクリニックでこの仕事を始めたわけ⑼

家族の誰かが病気の時、家族は一生懸命その人をサポートするでしょう。

それは子供であっても同じです。

自分以外の誰かが病気だとわかれば

頑張って、我慢して、自分の気持ちを抑えていたりします。

無理をすることも多いでしょう。

しかし、頭でわかっていても心が追いつかないこともあります。

そんな時、子供は別の形でSOSを出すことがあります。

 

前回小児科での白血病の子の体験を書きましたが、今回はその家族の話です。

白血病のHちゃんにはお姉ちゃんがいました。

彼女もまだ小学生でした。

小児科病棟は中学生以下の子供は家族であっても基本的に入ることができません。

子供のうちに流行る病気に感染しているリスクがあるからです。

特に白血病の子供たちは治療の時期によって

通常感染しないような菌にも感染することがあります。 

 

Hちゃんには毎日お母さんが付き添っていました。

お父さんも面会に来られていましたが、両親とも共働きで忙しくされていました。

ですから、基本的にはお姉ちゃんは家で一人で過ごすことが多かったようでした。

お姉ちゃんは、弟が病気であり頑張っていることも十分に知っていました。

お母さんがそばにいられないことも理解していました。

寂しいけれど、今は仕方がないと

お姉ちゃんは静かに一人で頑張っていたのだと思います。

 

ある時お母さんからこんな相談をされました。

「実はこの子が入院してから、お姉ちゃんが過食症になったみたいで、、、。」

お母さんが病院から家に帰ると、お菓子など食べた後たくさん残っていたり、

気がつくと何やらずっと食べているようなのでした。

寂しさを紛らわすように口にしだすと止まらなくなるようでした。

「たぶん寂しいからなんだと思うのですが、

みるからに急に太り始めるとちょっと体の方がも心配で、、、。」

 

指導医の先生とお姉ちゃんの話を聞きながら、どうしたものかと相談していました。

お姉ちゃんは、Hちゃんが入院してからその様子がわからず

心配だけが募っているのかもしれません。

寂しさもありますが、自分だけが取り残されているようにも感じているのではないか。

そう思い、Hちゃんに会ってもらうことにしました。

しかし、直接会うことはできません。

そこでガラス窓を挟んで二人で会うことになりました。

久しぶりに会う二人でした。

決して長い時間ではありませんでしたが、ガラス越しにいろいろ話ながら

何やら二人で楽しそうにやりとりをしていました。

これがよかったかどうかはわかりませんが、

お互いがいつものように過ごすことで

少しでも気持ちがプラスになればと願っていたのでした。

その後お姉ちゃんの話をお母さんから聞くことはなくなりました。

実際のところ、お姉ちゃんがどうなったかはわかりません。

しかし、子供であっても家族の状況がわからないよりも

お互いにいつものように過ごせることができれば

どこかで安心できるのではと考えています。

 

家族の中の誰かが病気になると、サポートする家族も悩みます。

どうしたらいいだろう。

どうするべきだろう。

お互いを思うほど、自分のことを犠牲にすることもあると思います。

家族ほどお互いに影響しあうものはないのではないでしょうか。

誰かをサポートするには、サポート側も元気で入られるように

患者さんはもちろん、家族の方のこころのケアも

常に必要であると感じます。

 

誰かが落ち込んだ時、

誰かが病気になった時

いつもそばにいる人が一緒に苦しむことよりも

いつでも変わらず待っていてくれる方が心強いものです。

私自身もそうあるように、自分自身のこころのケアもしていきたいものです。

 

誰かのサポートをされる方は自分を追い詰めず

自分らしくいられる時間を作ってください。