ヘテロクリニックの日記

病院勤務医時代に、今の医療体制では患者さんも医療者も幸せになれないのではと感じ、誰もが笑って幸せに生きる医療を届けるべく自由診療を開始しました。癌治療、緩和ケア、訪問診療などの経験を活かし、病気による人間関係、現在の医療問題、就労問題などを楽しく書こうと思います。

私がへテロクリニックでこの仕事を始めたわけ(13)

前回(12)の続きです。

私の本当にしたいことは何だろう?

ここに(大学病院に)いつまで勤めるのか?

それまでそんなことは考えていませんでした。

とりあえずみんなと同じように働いていれば大丈夫とどこか安心していました。

ですから、実際に自分の人生について問われると

はっきりと言えませんでした。

このままではいつの間にか年をとって、

ある時、本当にこれでよかったのかと後悔するのではないか。

そう思い始めました。

 

では、私はどうしたいのか?

 

その時点で答えは出せませんでした。

このままずっと病院にいるわけではなさそうですが、

かといって具体的な展望も見えません。

しかし、考えてみると私は治療そのものよりも

患者さんと向き合うことが好きなのではないかと思いました。

昔から人と接することが好きです。

ですから病院での働き方にずっとモヤモヤがありました。

医療現場ではいつも時間に追われ、数値や画像ばかりに目が向き

実際に治療するはずのその人がいないような感じがしていました。

例えば患者さんの治療のカンファレンスをしていても

患者さん個人のパーソナルな情報が少ないのです。

これは実際のところ仕方がないことだと思います。

医師は多くの患者さんを診なければならず、予定にはない緊急の処置もあり、

余裕を持って人と接する時間を持てないのが現状です。

 

ではどうしたらいいのか?

とりあえず、ここで自分がやりたいようにやってみることにしました。

自分なりに工夫して患者さんと話す機会を設けることにしたのです。

もともと病状説明などはしていましたが、

もっとより深く、今抱える不安なこと、苦しい辛いことなど

感情面での改善を図りたいと思いました。

家族や仕事のこと、今後の生き方についても話しました。

 

実際にやってみるとこれはなかなか大変なことでした。

昼食はとらずに患者さんとの面談の時間に回します。

検査の合間の10分ほどの時間も家族の方を呼んでできる限り話をしました。 

それまで他の医師と一緒にとっていた休憩時間を断り

その時間を患者さんとの時間にあてるようになりました。

それまではチーム内ではタバコ休憩がありました。

私はタバコは吸いませんでしたが、付き合いというか、

チームで行動することが当たり前だったのでなんとなくそこに同行していました。

しかし、そういったことが無駄なように感じ始めました。 

また、私は患者さんからどう思われるかを気にしていたのでした。

医者なのに、患者さんがいるのに、患者さんを待たせているのに

私が休憩をとることで患者さんから批判されるのではないかという思いもありました。

自分の思う可能な限りの時間を面談の時間にしていきました。

実際にやってみて確かに患者さんとの時間は増えましたが

いっこうに患者さんが楽になったようには感じませんでした。

それどころか、常に相手からどうしたらいい?と依存されたり

いつでも話を聞いてくれるとすがられたりするようになりました。

話も堂々めぐりになりやすく解決にならないことがほとんどでした。

ある時は早朝6時に話がしたいと電話で呼び出され、

ある時は緊急の処置が終わらないから今日はお話できないと伝えても

終わるまで待つから聞いてほしいとせがまれ、夜の3時に面談することもありました。

それでも、どうしてわかってくれないの?といったことを言われることがあり

私はどうしていいかわからなくなってきました。

やらなければいけない仕事もどんどん溜まってきます。

保険などの書類、論文などの作成などがたまっていきます。

夜遅くに帰るとそのままコンビ二弁当を食べて眠る生活です。

自分の身の回りが荒れ果てていくようでした。

 

また、チームの関係性もうまくいかなくなりました。

休憩を断るようになってから

どうして一緒に行動をしないのかと言われるようになりました。

そう言われると人に合わせなければならないような気になってしまいます。 

今まではなんとも思っていなかったのですが、

共に行動することを強制されるように感じだんだん苦痛になりました。

 「今はその患者さんのことはいいから、こっちをやれよ。」

「お前わかったから、とりあえず休憩行こうよ。」

他の医師からそう言われると

自分の一生懸命やっていることを否定されているようで反抗したくなりました。

 

どうしてうまくいかないのだろう?

どんどん患者さんとも医師とも人間関係が壊れていくようになりました。

 

それでもやり続けていました。

自分のやっていることを誰かに認めてもらいたかったのでした。

(こんなに頑張っているのに)

睡眠時間も短く、食事もきちんと取らず、

イライラすることが増え、明らかにストレスが溜まっていました。

 

そのうち、内視鏡を持つ手がわずかに震えるようになりました。

検査の時に立っているのがやっとで、終わったとたんしゃがみこむようになりました。

朝から鼻血が止まらなくなることが出てきました。

ある時から毎日何度も作り続けている薬剤の作り方がわからなくなりました。

明らかに頭が回らなくなっていました。

 

私の体と心はもう限界になっていました。